米国で、災害で傷んだ道路や橋を直すための緊急予算が相次いで動き出しています。連邦運輸省は2026年6月18日、ハリケーン「ヘリーン」などの自然災害で被災した道路・橋の復旧を急ぐため、約18.6億ドル(約2,900億円)の緊急復旧資金を各州に配分すると発表しました。ヘリーン関連だけで連邦負担は累計34億ドルに達し、その大半がノースカロライナ州に向けられます。
「直す予算」が崖を迎える米国
背景にあるのは、米国のインフラ財源が大きな転換点に差しかかっていることです。2021年に成立した超党派インフラ投資・雇用法(IIJA)の道路予算の枠は終盤に入り、道路整備の屋台骨である「ハイウェイ・トラスト・ファンド」の支出権限は2026会計年度末で期限切れを迎えます。これを引き継ぐべく、5年間で総額5,800億ドル規模の新たな再授権法案「BUILD America 250 Act」が下院委員会を超党派で通過しましたが、成立の行方とガソリン税頼みの財源の細りは依然として不透明です。新規建設の華やかさよりも、「いかに既存インフラを安全に維持し、災害から立て直すか」が政策の中心になりつつあるのが、いまの米国の姿です。
日本も「一斉老朽化」の波が迫る
これは決して対岸の火事ではありません。日本は世界有数の災害大国であると同時に、高度成長期に造った橋やトンネルが一斉に寿命を迎える局面にあります。国土交通省によれば、建設後50年を超える道路橋の割合は2019年の約27%から、2030年代には6割近くにまで急増する見込みです。2012年の笹子トンネル天井板崩落事故を教訓に点検制度が強化され、国は「国土強靱化」の旗のもとで、緊急に修繕が必要な橋を約30年後にゼロにする目標を掲げています。米国と同じく、日本でも問われているのは派手な新設ではなく、地味だが命に直結する「維持・更新の財源をどう安定して確保し続けるか」という点です。
INFRA HEROESの視点
現場の技術者や業界関係者にとって、米国の動きから読み取るべきポイントは三つあります。第一に、インフラ予算の主戦場が「新設」から「災害復旧・維持更新」へ移っていること。第二に、巨大な維持需要に対して財源は恒久的に保証されているわけではなく、政治日程に左右される構造的なリスクがあること。第三に、災害が頻発するほど復旧費が膨らみ、平時の予防保全(事後対応より安く済む)の重要性が増すことです。点検データの蓄積、優先順位づけ、そして財源の継続性──この三点セットは、日米のインフラ現場が共通して向き合う宿題だと言えるでしょう。
出典:U.S. Department of Transportation -「Trump’s Transportation Secretary Sean P. Duffy Announces $1.9 Billion to Repair State Roads and Bridges Damaged by Natural Disasters」(https://www.transportation.gov/briefing-room/trumps-transportation-secretary-sean-p-duffy-announces-19-billion-repair-state-roads)/Smart Cities Dive「$5.4B in federal funds available for bridge construction, repair, maintenance」(https://www.smartcitiesdive.com/news/usdot-fhwa-funds-highway-bridge-construction-repair-maintenance/750261/)/国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来」(https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/02_01.html)
