INTERVIEW / INFRA HEROES

スーパーゼネコン5社の本音

スーパーゼネコン5社の本音

鹿島建設・大林組・大成建設・清水建設・竹中工務店のトップたちが語る業界の未来

2025年は「ゼネコンのターン」

2025年の建設業界は過去20年で最も劇的な構造変化を迎えている。かつての「発注者有利」の構図から「受注者有利」へと転換したのだ。この逆転現象は、建設業界における人材不足、労務費上昇、そして施工難度の増加がもたらした必然的な帰結である。スーパーゼネコン5社のトップたちが異口同音に語っているのが「選別受注」という戦略である。

鹿島建設が掲げる「3兆円への道」

鹿島建設は売上目標を2兆8000億円から3兆円に上方修正した。同社のトップが語った背景にあるのは、単純な売上拡大ではなく、利益率改善への執念である。2025年度の営業利益目標は前年比25%増の見通し。これは何を意味するか。利益率が高いプロジェクトに経営資源を集中させるということだ。受注金額は増えなくても、質の高い案件を選別することで利益体質への転換を図っているのである。

鹿島建設が特に力を入れているのがデジタル戦略会議の位置づけだ。同社は「デジタル戦略会議」という組織を経営の中核に据え、全プロジェクトにおけるDX導入をマンダトリーなものにした。土木工事、ビル建築、都市開発のあらゆる案件にBIM・CIM・IoTを統合させることで、施工精度を高め、原価低減を図っているのである。

大林組の「デジタル推進室」が仕掛ける変革

大林組のアプローチは異なる。同社は「デジタル推進室」という専門部署を立ち上げ、テクノロジー企業との協業に注力している。特に注目すべきは、ドローン、AI、ロボティクスの三点セットによる現場革新である。大型プロジェクトの起工式で、ドローンによる全景撮影と3Dモデル化をリアルタイムで実施。これにより、施工進捗の可視化と異常検知の自動化を実現した。

大林組の首脳が語った言葉が印象的だ。「デジタルは手段ではなく、経営そのものである」。この哲学の下、同社は従来の建設プロセスの根本的な再設計に着手している。設計段階からAIを使った最適化提案、施工段階でのロボット活用、そして竣工後の建物運用段階におけるIoT活用まで、ライフサイクル全体をデジタルで統合させるビジョンを掲げている。

大成建設の「選別受注」戦略の実態

大成建設は2024年に営業利益1000億円を突破し、業界全体に衝撃を与えた。同社のトップが明言したのが「不採算案件への入札を打ち切る」という方針である。これまで業界では「シェア維持」という名目で採算性の低い案件を受注することが通例だった。しかし大成建設は、その慣例に敢えて反旗を翻したのだ。

大成建設が公開した「案件採択基準」は極めて透明的である。営業利益率8%以上、労務費上昇率への対応が可能か、施工難度は許容範囲内か、この三点を厳格に評価する。結果として受注件数は減少したが、利益体質は劇的に改善した。これは建設業界における「質の経営」への転換を象徴する事例として評価されている。

清水建設のデジタル戦略推進室

清水建設は「デジタル戦略推進室」を立ち上げ、業界でも最も急進的なDX施策を展開している。特に着目すべきは、建設現場の「可視化」と「予測」を融合させたシステムの構築である。全現場に展開されたセンサーネットワークにより、365日24時間、気象、労務状況、安全指標をリアルタイムで把握。この膨大なデータをAIで分析し、事故予測と原価最適化を同時に実現させているのだ。

清水建設のCIOが語った未来像は業界の常識を超えている。「2030年までに、すべての大型プロジェクトを無人化する」。これは大言壮語ではなく、実現に向けた具体的なロードマップが既に存在している。遠隔操作によるクレーン制御、AI搭載の建設ロボット、ドローンによる監視体制、これらが統合されたエコシステムが既に試験運用段階にあるのだ。

竹中工務店の「非上場という選択」

竹中工務店は、業界で唯一の大規模非上場ゼネコンとして独自の道を歩んでいる。上場企業との根本的な違いは、経営判断の時間軸である。竹中工務店のトップが語るのは「10年単位での投資」という概念だ。短期的な株価評価に縛られないからこそ、長期的なビジョンに基づいた経営が可能となるという論理である。

竹中工務店が特に力を注いでいるのが、建設業の「職人文化」の継承とDXの融合である。伝統的な施工技術を持つベテラン職人のノウハウをデジタル化し、若い世代に伝承するシステムを構築した。これは単なるナレッジ管理ではなく、職人の「勘」と「経験」をAIで再現するという挑戦である。竹中工務店の研究所では、数百人の熟練職人の動作データを収集し、それをロボットアームの制御プログラムに組み込む実験が進行中だという。

「選別受注」で受発注の力学が逆転した背景

建設業界における受発注の力学逆転は、単なる需給関係の変化ではない。深い根があり、その背景には構造的な要因が存在する。第一は、建設労働力の急激な減少である。統計によれば、建設業従事者は2005年の685万人から2024年の462万人へと約32%減少している。第二は、労務費の急騰である。上昇率は年3~5%に達し、建設業全体の利益率を圧迫している。

第三の要因が、若い世代の建設業離れの加速である。建設業の新規就業者は2012年の17万人から2024年の5万人へと激減した。この「三重苦」の状況下で、ゼネコン各社は打つべき手を打ちつつある。それが「選別受注」という戦略なのだ。利益率の低い案件は受注しない。技術的に難度の高い案件で初めて競争力を発揮する。この新しい競争軸への転換が、業界全体の意識を変えようとしている。

5社の戦略比較:DXへのアプローチの違い

5社のDX戦略を比較すると、企業文化の違いが明確に現れている。鹿島建設は「全社的な統一」を重視。すべてのプロジェクトに共通のデジタルシステムを導入することで、スケールメリットを追求している。大林組は「機動性」を重視。技術企業との協業により、最新テクノロジーを素早く現場に導入することを優先している。

大成建設は「採算性」を重視。DX投資の ROI を厳格に評価し、すぐに利益に結びつくシステムに資源を集中させている。清水建設は「無人化」という明確なビジョンを掲げ、それに向けた段階的な投資を実行している。竹中工務店は「人材」を重視。デジタルと職人の融合という独自の道を歩んでいるのだ。

業界の未来を決めるのは「選別」の精度

2025年以降の建設業界で勝者となるのは、「どの案件を受け、どの案件を断るか」という選別能力に優れた企業だろう。かつての「シェア拡大」から「利益最大化」へ。この転換は建設業界における、最も重要なパラダイムシフトである。スーパーゼネコン5社の動向から目が離せない。

次はあなたの物語を。

取材依頼・掲載相談はこちらから。

取材依頼する