「うちも給料、上げてやりてえよ。でも、その金がどこにあるんだ」――夏のボーナスを配りながら、そう漏らした社長は少なくないはずです。最低賃金は毎年上がり、若手は初任給の高い会社へ流れていく。賃上げは避けられない。けれど原資は限られている。この板挟みを少しでもゆるめてくれる制度が「賃上げ促進税制」です。特に中小には、赤字の年でも取りこぼしを最大5年間持ち越せる、他にはない仕組みがあります。
まず、いくら戻ってくるのか
中小企業向けの賃上げ促進税制は、従業員に払った給料の総額(雇用者給与等支給額)が前年より増えていれば、その増えた分の一部を法人税から差し引ける制度です。増加率が前年比プラス1.5%なら増加額の15%、プラス2.5%なら30%が控除されます。さらに教育訓練費を一定以上かければ上乗せもつきます。ざっくり言えば、職人3人にそれぞれ月1万円上げて年36万円の人件費増になった場合、その3割にあたる10万円強が税金から返ってくる計算です。正確な率と要件は、中小企業庁のパンフレットで自社の数字にあてはめて確認してください。
赤字でも捨てるな。中小だけの“5年繰越”
ここが、土木でも足場でも解体でも、赤字すれすれの現場を回してきた社長にこそ効く話です。控除しきれなかった分――たとえば今年が赤字で払う法人税がゼロ、あるいは控除枠(法人税額の20%)を超えてしまった分は、中小に限り最大5年間繰り越せます。今年は取り返せなくても、黒字になった年に効いてくる。「どうせうちは税金なんか大して払ってない」と切り捨てるのは、あまりにもったいない。ただし繰り越した控除を使う年は、その年の給料総額が前年を超えていることが条件です。
やることは、そう多くありません。まず、今年の給料総額が前年より増えているかを確認する。増えていれば、赤字でも申告書に控除額を書いて“繰越の権利”を残しておく。あとは顧問税理士に「賃上げ促進税制、うちは使えてるか」と一言聞くだけで十分です。土木でも足場でも解体でも運送でも、人に払った金が、そのまま税の武器になる。上げた給料を、ただのコストで終わらせない。それが、これからの埼玉で人を抱えて戦う社長の知恵です。
出典:中小企業庁「中小企業向け 賃上げ促進税制 ご利用ガイドブック」、経済産業省「賃上げ促進税制」