昼の十二時前。加須の路地裏に、もう列ができている。整理券を握った男たちの腹が、低く鳴る。暖簾の向こうから漏れてくるのは、ラードと醤油が鉄鍋の上で焦げる、あの匂いだ。──町中華「かし亀」。菓子屋から始まり、三代をかけて中華の看板を磨いてきた、加須の名店である。
席に着く。水の入ったグラスに、窓の光が滲む。やがて運ばれてきた皿を見て、思わず背筋が伸びた。
飯の山に、肉が突き立っている。
黄金色に炒められた飯が、皿の上で小高い山を成している。卵をまとった一粒一粒が、油でテラテラと光る。そしてその頂(いただき)に──ぶ厚い炙りチャーシューが、惜しげもなく突き立てられている。脂はとろけ、表面はこんがりと焦げ、断面はしっとり桜色。挽きたての黒胡椒がふりかかり、白髪ネギがその上で涼やかに揺れている。
箸を入れる。チャーシューの脂が、熱い飯に溶けて流れ落ちていく。湯気と一緒に、香ばしさが鼻の奥を突く。ひと口。角の立った炒飯の塩気に、肉の甘い脂が絡んで、喉の奥でひとつになる。胡椒が遅れて効いてくる。額に、じわりと汗がにじむ。
これは、働いた男のための飯だ。
住宅も、非住宅も、土木も、足場も、解体も、運送も──午前を体で削ってきた男にこそ、この一皿は効く。考えるな、食らいつけ。山を崩し、肉を巻き込み、かき込む。気づけば皿は空、腹はパンパン、午後の現場が少しだけ軽くなっている。
締めには、名物の生姜醤油ラーメンを半分。生姜のキレが胃を温め直し、汗がもう一度噴き出す。並ぶだけの価値は、ある。次の休憩、現場の相棒を連れて行け。加須・かし亀。腹を空かせて、覚悟を持って。
店舗情報:中華 かし亀(埼玉県加須市)。行列必至・整理券制のことも。詳細は食べログのページを参照。
