「相見積もりで、一番安いところに決まった」。この一言に、何度悔しい思いをしてきたでしょうか。住宅も、非住宅も、土木も、足場も、解体も、そして運送も──ガテン系の現場は長いあいだ「安く請けた者勝ち」の消耗戦に付き合わされてきました。ですが、その前提が、いま制度の側から大きく崩れ始めています。
国が「これより安くするな」と言い出した
2025年12月、改正建設業法が全面施行されました。目玉は「標準労務費」です。国(中央建設業審議会)が職種ごとの労務費の基準を示し、これを著しく下回る見積りを出すこと、発注者が下げさせることが禁じられました。さらに、原価割れの契約は受注者側にも禁止。資材が高騰しそうなときは契約前に発注者へ通知し、実際に上がったら価格転嫁の協議をする義務も定められています。「赤字でも仕事を取る」ことが、もう美徳ではなく違反になりうる時代です。
運送も同じ流れです。2024年3月、トラックの「標準的運賃」が改定され、運賃水準は8%引き上げ。さらに荷待ち・荷役の対価、燃料の高騰分、下請けに出す際の手数料まで、荷主へ堂々と請求できるよう整理されました。狙いはドライバーの賃上げ原資の確保と、多重下請け構造の是正です。
「基準があります」は、最強の交渉カード
社長にとって大事なのは、これを“自分の武器”として使い倒すことです。値切られたときに「うちも苦しくて……」と頭を下げるのではなく、「国の標準労務費(標準的運賃)ではこの水準です」と数字で押し返す。見積書に法定福利費や安全衛生経費、燃料・荷役の対価を分けて明記する。それだけで、交渉のテーブルはぐっと対等に近づきます。基準は、押しの弱い人ほどよく効く盾です。
もちろん相手も簡単には首を縦に振りません。だからこそ、根拠となる積算、職人やドライバーの実働時間、原価の内訳を、普段から数字で握っておくことが効いてきます。どんぶり勘定のままでは、せっかくの制度も使いこなせません。値決めは、経理ではなく社長の仕事です。
人手不足の今、安く請けて現場を回す体力勝負は、いずれ会社も職人も壊します。国がようやく「適正な値段で受けていい」と背中を押してくれました。INFRA HEROESとしては、ここで一歩踏み出す社長を応援したい。次の見積りから、堂々と“適正価格”を書きましょう。安く請けたら、負けです。
出典:国土交通省「改正建設業法に基づく『労務費の基準』について」(https://www.mlit.go.jp/)、国土交通省「新たなトラックの標準的運賃を告示しました~運賃水準を8%引き上げ~」(https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha04_hh_000294.html)
