米国エネルギー省(DOE)が6月、老朽化した石炭火力発電所を「立て直す」ための大型支援を相次いで打ち出しました。閉鎖済みの設備を復活させたり、新設したりする4件のプロジェクトに最大3億5,000万ドル、さらに国防生産法(Defense Production Act)の枠組みを使って13カ所の石炭火力と輸出ターミナルに最大5億ドル。合わせて約3.6GW分の石炭火力を維持・新設する計画です。
世界が脱炭素へ舵を切るなか、なぜ今さら石炭なのか。背景にあるのは、AIとデータセンターが生み出す爆発的な電力需要です。米国のデータセンター向け電力需要は2025年の31GWから2026年には41GW級へと跳ね上がる見通しで、北米の電力信頼度機関は今夏の供給不足リスクに警告を出しています。「とにかく安定して大量の電気が要る」という現実が、いったん退場しかけた石炭を呼び戻したわけです。
日本も他人事ではない「安定供給か、脱炭素か」
この綱引きは、日本のエネルギー政策が長年抱えてきたジレンマとそっくりです。日本は石炭火力をすぐには手放せず、アンモニア混焼(碧南火力など)でCO2を減らしながら延命を図る独自路線を歩んできました。G7では石炭フェーズアウトの圧力を受けつつ、GX(グリーントランスフォーメーション)で再エネと原発、そして「過渡期の火力」をどう組み合わせるかに頭を悩ませています。米国の石炭回帰は、「電力の安定供給」という現場の論理が、脱炭素という理想をしばしば上回るという冷徹な事実を改めて突きつけています。
注目すべきは、米国でも電力を食い尽くす主役がAIだという点です。X-energyがテキサス州シードリフトで進める小型モジュール炉(SMR)4基の計画のように、原子力への回帰も同時に進んでいます。電源の「正解」が石炭・原子力・再エネの間で激しく揺れ動いているのは、日米共通の構図と言えるでしょう。
INFRA HEROESの視点
現場のエンジニアにとって重要なのは、「脱炭素ロードマップは一直線ではない」という前提で設備計画を立てることです。需要側(データセンター、半導体工場、電化)の急拡大が、電源構成の想定を数年単位でひっくり返す時代に入りました。再エネ・原子力・火力のどれか一つに賭けるのではなく、需給の振れ幅そのものに耐えられる送配電網と運用体制をどう設計するか——米国の「石炭回帰」は、その問いを日本の私たちにも投げかけています。
出典:U.S. Department of Energy「Energy Department to Invest $350 Million to Build, Modernize, and Restart Coal Plants」(https://www.energy.gov/articles/energy-department-invest-350-million-build-modernize-and-restart-coal-plants)/Utility Dive「Trump administration announces $850M to modernize US coal capacity, build 2 new plants」(https://www.utilitydive.com/news/doe-announces-850m-modernize-coal-capacity-build-new-plants/822109/)
