米国で、飲み水を運ぶ古い「鉛の水道管」を一掃するための公的資金が、いよいよ最終年度を迎えています。米環境保護庁(EPA)は2026年度分として約29億ドル(約4,500億円規模)を各州に配分し、残るおよそ400万本とされる鉛製給水管の交換を後押しします。背景には、原則10年以内に鉛管をすべて入れ替えるよう義務づけた連邦規則と、5年間で総額150億ドルを投じてきたインフラ投資法(IIJA)の枠組みがあります。2026年はその上乗せ予算の区切りの年にあたります。
なぜ今、地下のインフラが注目されるのか
米国の水道管には敷設から45年から100年が経過したものが珍しくなく、健康への影響が懸念される鉛が使われ続けてきた区間も残っています。配分額はイリノイ州が最多の約2.96億ドル、続いてオハイオ州が約2.0億ドルと、人口が多く工業化の歴史が長い地域ほど大きく積み増される構図です。普段は目に見えない地下のインフラに、これだけまとまった国費が振り向けられること自体が、老朽化対策の緊急度を物語っています。
日本の「更新130年問題」と重なる構図
これは対岸の火事ではありません。日本の水道管の多くは高度経済成長期に一斉に敷設され、法定耐用年数の40年を超えた管路が年々増えています。ところが全国の管路更新率は年0.6〜0.7%程度にとどまり、このペースでは入れ替えに100年以上かかるとも指摘されてきました。人口減少で料金収入が細り、とりわけ中小の自治体ほど更新費用を捻出しづらいという構造的な悩みも抱えています。2025年初めに埼玉県で起きた大規模な道路陥没は、地中で静かに進む老朽化の怖さを社会に突きつけました。
INFRA HEROES視点:見えない資産をどう守るか
米国が「期限を切って国費を集中投下する」という分かりやすい号令で動いているのに対し、日本は広域化や官民連携、データを使った管路の劣化予測といった地道な工夫の積み重ねで臨んでいます。現場のエンジニアにとって重要なのは、交換すべき管をどう優先順位づけし、限られた予算と人手の中で最大の安全を確保するかという設計力です。地下インフラの更新は票にもニュースにもなりにくいテーマですが、暮らしの根幹を支える仕事であることに変わりはありません。日米それぞれのやり方を見比べることは、これからの日本の水道事業を考えるうえで多くのヒントを与えてくれます。
出典:U.S. Environmental Protection Agency / WaterWorld「EPA announces $2.9 billion for lead pipe replacement as states receive 2026 allotments」(https://www.waterworld.com/drinking-water-treatment/distribution/news/55379259/epa-announces-29-billion-for-lead-pipe-replacement-as-states-receive-2026-allotments)、Engineering News-Record「EPA Redirects $4.1B to States for Lead Pipe Removal」(https://www.enr.com/articles/62080-epa-redirects-41b-to-states-for-lead-pipe-removal)
