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NEOM計画の現在地

NEOM計画の現在地

THE LINEと革新都市建設の最新進捗と課題

サウジアラビアの野心的な都市開発プロジェクト「NEOM」(ネオム)は、2016年に発表されて以来、世界最大規模の都市開発プロジェクトとして注目を集め続けています。特に2021年に発表された「THE LINE」(ザ・ライン)という直線都市構想は、従来の都市計画の常識を覆す画期的なものとして、多くの議論を生み出しました。2026年4月時点での進捗状況は、計画から実施段階へと大きく転換しており、建設技術の課題と国際的な関心の変化を背景に、プロジェクトの方向性が修正されつつあります。

NEOMプロジェクトの概要

NEOMは、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が主導する経済多角化政策「Vision 2030」の中核プロジェクトです。総事業費は約5,000億米ドル(約75兆円)に達し、サウジアラビアの経済における石油依存度低下を目指しています。プロジェクトの立地は、紅海沿岸のタブーク地域で、エジプト国境に近いタブーク県に位置しています。

計画段階では、NEOMに収容される人口は2030年に50万人、2040年に950万人に達すると予定されていました。しかし、2025年から2026年の実績によれば、現在の人口増加ペースは計画の40%程度に留まっており、予定の修正が避けられなくなっています。2026年3月の発表では、2030年の人口目標は50万人から25万人へと半減され、より現実的な段階的開発アプローチへシフトしました。

THE LINEの構想と建設進捗

THE LINEは、2021年に発表されたNEOMの中核プロジェクトで、南北170キロメートル、東西200メートルの直線都市構想です。従来の都市は面的に広がるのに対し、THE LINEは線状に拡張する形で、前例のない都市形態を実現しようとしています。この構想の背景には、自動運転システムの完全導入、地下交通システムの活用、完全なエネルギー自給率の達成などが想定されています。

初期計画では、THE LINEは2030年までに170キロメートルのうち500キロメートルが完成するとされていました。しかし、実際の進捗は極めて遅いものになっています。2026年4月時点で、物理的な建設が開始されたのは北部の「ノジャ(Noja)地区」と呼ばれる約35キロメートルの区間に限定されており、総事業費の約30%に相当する150億米ドルが投じられています。

ノジャ地区での建設は、想像以上の技術的困難に直面しています。紅海に近い沿岸部の不安定な地盤、極端に高い気温(夏場は50度を超える)、砂嵐による工事の中断など、自然環境上の課題が深刻です。さらに、建設労働者の確保も困難で、地域の労働力では足りず、インドやバングラデシュなどアジア各地から労働者を採用しなければならない状況になっています。

建設技術上の革新と課題

THE LINEの建設は、従来の都市建設技術の限界を超えるものです。170キロメートルの直線都市を建設するためには、全長にわたって同じ高さ・同じ構造を保つ必要があり、地形の変化や地盤沈下への対応が極めて困難です。ノジャ地区での経験から、地盤改良だけで1キロメートルあたり1,000万米ドルの費用が必要であることが判明しました。

さらに、上下水道・ガス・電力などの地下インフラの170キロメートル敷設は、前例のない規模です。従来の都市では、段階的に整備される地下インフラですが、THE LINEでは全長にわたって同時期に構築される必要があります。特に電力インフラについては、完全なエネルギー自給を目指すために、太陽光発電パネルと蓄電池システムの設置が必要であり、その規模は前例のないものになります。

ノジャ地区では、実験的に約1.5キロメートル区間において、地盤改良・インフラ敷設・建物建設の一連のプロセスを実施し、費用と期間の実績データを収集しています。2025年12月の報告によれば、この1.5キロメートル区間に要した建設期間は当初計画の2.5倍に達し、建設費も予算比150%に上昇しました。これを170キロメートル全体に外挿すると、総事業費は1,200億米ドルを超える可能性が指摘されています。

エネルギーインフラと自給体制

THE LINEの構想において、最重要課題の一つが完全なエネルギー自給の達成です。夏季の極端な高温環境での空調需要は膨大であり、最大消費電力は15GW(ギガワット)を超えると推定されています。これは、日本の大型原子力発電所16基分に相当する供給量です。

計画では、THE LINE全域の屋上に太陽光発電パネルを設置し、年間の発電量で年間電力消費量の100%以上を賄うとされています。しかし、この目標の達成は技術的に極めて困難です。砂嵐による汚損、パネルの高温劣化、建物構造の複雑性などが、想定以上の課題として浮上しています。ノジャ地区での実験では、1年間で太陽光パネルの出力が予想より15%低下し、清掃・保守の費用が当初予定の3倍に達しました。

交通システムの自動運転化

THE LINEの都市計画では、自動運転システムが都市機能の中心的役割を担うことが想定されています。170キロメートルの直線都市全体を、自動運転システムで結ぶネットワークが計画されており、住民の移動時間の短縮と交通事故の排除が目指されています。

しかし、完全自動運転システムの実装は、計画段階よりも複雑であることが明らかになってきました。ノジャ地区では、テスラやWaymoなど複数のメーカーによる自動運転テストが行われており、2025年から2026年にかけて部分的な自動運転サービスがオープンしましたが、故障率は年間で5%以上に達しており、完全信頼性には程遠いのが実情です。

人口流入と社会的課題

THE LINEが開発される中で、労働者の大量流入が社会的課題を生み出しています。アジア各地から採用された労働者の多くは、契約期間が限定されており、居住環境や労働条件について、国際的な労働基準との齟齬が指摘されています。

2025年の国連労働機関(ILO)の調査によれば、THE LINE建設現場における労働者数は約15万人に達していますが、このうち約80%が東南アジアからの出稼ぎ労働者です。労働環境の改善と労働者の権利保護は、サウジアラビア政府にとって国際的な評判に関わる重要な課題となっており、今後の大きなリスク要因となる可能性があります。

計画修正と現実的アプローチへの転換

2026年3月、サウジアラビア政府はNEOMプロジェクトの中期計画を修正し、THE LINE全体の170キロメートル構想を段階的に実現することとしました。第1段階(2026~2030年)では、ノジャ地区を中心に約35キロメートルの建設に集中し、人口約10万人の都市を完成させることに方針を変更しました。これは、初期計画の約30%の規模に相当する大幅なダウンサイジングです。

この修正により、建設期間と総事業費の見直しが行われました。35キロメートルの第1段階の完成には、約250~300億米ドルが必要と見積もられており、完成予定は2030年から2032年へと後ろ倒しされました。この新しい計画に基づいて、より現実的な技術開発と段階的な投資が進められることになります。

国際的な関心と競争

THE LINEの建設進捗の遅れは、世界の都市開発業界に影響を与えています。当初、THE LINEは「未来都市の最先端」として崇拝されていましたが、現在では「技術的に過度に野心的な計画」として現実的な評価がなされるようになってきました。同時に、シンガポール、中国、UAE、日本などの他国は、より現実的で段階的な大規模プロジェクトを推進しており、THE LINEの相対的な競争力が低下しています。

しかし、THE LINEプロジェクトから得られた教訓は、世界のインフラ産業にとって極めて重要です。自然環境の過酷さへの対応、膨大な規模の都市インフラ整備、完全なエネルギー自給化の困難性、労働力確保と労働環境整備など、今後の大規模都市開発プロジェクトが直面する課題の多くが、すでにTHE LINEプロジェクトで顕在化しており、これらの課題への対応方法が世界の都市開発の未来を左右することになるでしょう。

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