COLUMN / INFRA HEROES

海底ケーブルの地政学

海底ケーブルの地政学

通信インフラ覇権争いにおける日本の立場と安全保障課題

海底ケーブルが決める国際通信覇権

現代のグローバル通信の大動脈は、地上の目に見えるところに存在しない。世界中のインターネットトラフィック(データ通信)の99%以上が、海底に敷設された光ファイバーケーブルを通じて伝送されている。日本を含む島国群では、国際通信のほぼすべてが海底ケーブルに依存しており、この基盤インフラの安全保障上の重要性は計り知れない。2026年現在、海底通信ケーブルをめぐる国家間の競争が、新しい地政学的な軍事行為へと発展しつつあるのだ。世界中には現在、約450本の国際海底通信ケーブルが敷設されており、総延長は100万km以上に達する。これらは複雑に絡み合い、相互接続されており、ケーブル網全体が世界経済の神経網として機能している。ところが、この基盤インフラの構築と運用について、アメリカ、中国、欧州各国の間で激しい競争が繰り広げられており、日本も深く巻き込まれているのだ。

海底ケーブルの物理的特性と脆弱性

海底ケーブルは、直径約17mmの光ファイバーコアを持つ通常のケーブルであり、それ自体は決して強固なものではない。船舶のアンカーによる破断、海底地震による損傷、海流による浸食など、多くの物理的リスクにさらされている。実際、毎年平均20~30本のケーブル障害が報告されており、多くは上記の自然的原因と見なされている。しかし2025年以降、複数の国の情報機関がこれらの「障害」の一部が意図的な破壊行為である可能性を指摘し始めた。ロシアのウクライナ侵攻に伴う NATO との緊張の中で、北大西洋の海底ケーブル損傷が異常に増加したというニュースは、この懸念を裏付けている。

中国とアメリカの海底ケーブル覇権争い

海底ケーブル敷設をめぐる中国とアメリカの競争は、2020年代に入って急激に激化している。アメリカは従来、国際電気通信連合(ITU)などの国際機関を通じた基準設定を通じて、海底ケーブルのデファクト・スタンダード(事実上の標準)を支配してきた。Googleなどのアメリカのテック企業も積極的に海底ケーブルプロジェクトに投資し、東アジアをアメリカ・太平洋沿岸とつなぐケーブルの敷設を主導してきた。一方、中国は2010年代から「デジタルシルクロード」戦略の一環として、自国資本による海底ケーブルプロジェクトに莫大な投資を行っている。アフリカ大陸、南米、そして東南アジアを中国とダイレクトに結ぶ複数の海底ケーブル計画が進行中だ。

太平洋地域での競争激化

太平洋地域は特に、両国の競争が集中している領域である。日本、オーストラリア、シンガポール、ニュージーランドなどを結ぶ海底ケーブルプロジェクトで、中国が新たなプレイヤーとして台頭し、アメリカの主導権を脅かし始めているのだ。

日本の立場と戦略的課題

日本は、アメリカとの同盟関係の中で、従来は海底ケーブルインフラについても、米国主導のシステムに依存してきた。しかし近年、日本独自の海底ケーブル戦略の必要性が認識されるようになっている。2025年、総務省と経済産業省は「海底ケーブル戦略」という共同文書を発表し、日本国内の複数地点への国際ケーブル接続点の分散化、そして日本主導による新たな国際海底ケーブルプロジェクトの推進を打ち出した。

日本主導の海底ケーブルプロジェクト

2025年5月、日本の大手電話会社NTT、KDDI、そしてソフトバンクは共同で、「太平洋横断統一ケーブル(Pacific United Cable)」という新規プロジェクトを発表した。このプロジェクトは、日本の複数地点から北米への複線ルートの敷設を計画しており、従来のアメリカ支配的なケーブル網の構造を変える可能性を秘めている。

海底ケーブルの脆弱性と防御戦略

海底ケーブルインフラの物理的脆弱性は、単なる技術的問題ではなく、国家の安全保障に関わる大きな課題である。2025年、NATO加盟国の情報機関は、海底ケーブル保護のための新しい監視・防御システムを共同開発することで合意した。日本も、この国際的な海底ケーブル防護体制に参加する予定である。

新技術による海底ケーブルの高度化

2025年、光ファイバー技術の急速な進歩により、海底ケーブルの伝送容量は劇的に増加している。従来型のケーブルと比較して、最新型は10倍以上の伝送容量を持つようになった。同時に、AI技術を活用したケーブル管理システムの開発も進展している。

結論:海底ケーブルが決する国家の通信覇権

グローバル化とデジタル化が進む現代において、海底通信ケーブルは、国家の経済的・政治的・軍事的な存続を左右する基盤インフラである。日本が国際社会における独立した立場を保つためには、日本主導の海底ケーブルプロジェクトを推進し、通信インフラにおける戦略的自律性を確保することが不可欠である。

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