COLUMN / INFRA HEROES

空飛ぶクルマとエアモビリティインフラ

空飛ぶクルマとエアモビリティインフラ

eVTOL実用化と次世代交通インフラ

都市上空が新しい交通インフラになる

数年前までは「夢の技術」と呼ばれていた「空飛ぶクルマ」が、2026年現在、現実のインフラとして急速に具体化しつつあります。電動垂直離着陸航空機(eVTOL:Electric Vertical Take-Off and Landing)の商用運航が複数の国で開始され、日本でも大阪万博(2025年開催)を機に、本格的な導入準備が進行中です。これまで、人類は地上の二次元平面での移動を中心に都市インフラを発展させてきましたが、eVTOLの登場により、都市上空という新しい三次元空間が、交通インフラの領域として加わることになります。本記事では、eVTOL実用化に伴う新しいインフラ「バーティポート」(垂直離着陸場)の整備、航空交通管制システムの革新、そして都市計画への影響について、最新の動きを解説します。

eVTOLの開発状況と実用化の段階

eVTOLの開発は、米国、中国、ヨーロッパで特に急速に進んでいます。米国のJoby Aviation、Archer Aviation、中国のEHangなど、複数のベンチャー企業が、既に実証飛行の段階を過ぎ、商用化認可の取得に向けて動いています。2025年8月の時点で、オーストラリアのメルボルン、シンガポール、中国の深圳では既に商用運航が開始されており、年間数千人のユーザーが利用している状況です。

日本でも、2024年から複数企業が国土交通省から実証実験の許可を得ており、京都、大阪、東京での試験飛行が実施されています。日本のSTARTやH2L(青森県)といったスタートアップが、eVTOL開発に本格参入し、数年以内の商用化を目指しています。大阪万博(2025年4月~9月開催)では、eVTOLの実験運航が予定されており、これが日本国民がeVTOLを身近に体験する重要な機会になると期待されています。

バーティポートのインフラ整備

東京のバーティポート整備計画

東京都は、2026年から2030年にかけて、都内に約20~30箇所のバーティポートを整備する計画を立てています。これらは、高層ビルのルーフトップ、駅前の空きスペース、河川敷を活用して配置される予定です。特に、羽田空港から都心への移動利便性向上が重要な目的であり、羽田→大手町(約10km)を、従来は60分以上要していたリムジンバスから、eVTOLで15~20分に短縮することが目標です。

東京都都市整備局によると、バーティポート整備には総事業費約1,500億円を見込んでおり、2028年までに主要な20箇所が完成予定です。各バーティポートは、スマートグリッド対応の充電施設、気象監視システム、乗降施設、管制センター機能を備えた設計となります。

大阪万博後のバーティポート配置計画

大阪万博(2025年)でのeVTOL実験運航を機に、大阪府は万博会場と大阪駅、関西国際空港を結ぶ、3つのバーティポート整備を計画しています。この「空の三角ネットワーク」が、関西地方の新しい交通インフラの核となり、観光客の誘致と都市経済の活性化に寄与することが期待されています。

大阪府の試算によると、万博来場者約2,800万人のうち、約2%(約56万人)がeVTOLを利用する可能性があると予測されており、これは年間ベースで約4億円以上の新規経済効果をもたらすと見込まれています。

航空交通管制システムの革新

UTM(無人航空機交通管理)システムの構築

eVTOLが都市上空を多数飛行するようになると、現在の航空管制システムでは対応不可能です。そこで、注目されているのが「UTM」(Unmanned Traffic Management:無人航空機交通管理)システムです。このシステムは、複数のeVTOLやドローンの位置、高度、速度をリアルタイムで把握し、衝突を回避する自動制御を行うものです。

日本では、内閣府が主導して、国家的な「空の産業革命」イニシアティブの一環として、UTMシステムの開発を推進しています。2024年から2025年にかけて、東京・大阪・福岡の上空で、複数のドローンとeVTOLが共存する環境での試験運用が実施されており、2026年末の実用化を目指しています。

5G・6G技術による遠隔操縦システム

eVTOLが完全自動運航か、それとも有人操縦かという問題は、技術的課題であり、かつ安全・法制度上の課題です。現在のところ、初期段階のeVTOLは有人(パイロット乗搬)またはパイロットによる遠隔操縦の方式が採用されています。この遠隔操縦を可能にしているのが、5G(そして将来的には6G)通信ネットワークです。

低遅延・高信頼性の5G通信により、地上の操縦室からeVTOLを遠隔操縦する技術が確立されています。日本においても、NTTドコモが、東京・大阪・福岡の上空に高度500m以下をカバーする「eVTOL用5Gネットワーク」の整備を進めており、2026年末の完成予定です。この基盤整備により、eVTOLのより安全で効率的な運航が可能になります。

経済・社会への影響

タイムロスの削減と地域経済への波及効果

eVTOLが都市交通として定着すれば、その社会経済的インパクトは極めて大きいものになります。まず、地上交通の渋滞を迂回できるため、時間価値の高いビジネスパーソンやVIP移動において、大幅なタイムロス削減が実現します。現在、東京~羽田空港間の移動に1時間以上要しているビジネス移動が、15~20分に短縮されることで、年間数億人時のタイムが創出されます。

地方都市への波及効果も期待されています。従来、地方空港から都市中心部への移動は、リムジンバスで30~60分要していましたが、eVTOLにより15分程度に短縮されると、地方からの日帰りビジネス出張が激増し、地方経済と都市経済の統合が加速するでしょう。

CO2削減と環境への貢献

eVTOLは、完全に電動で、排気ガスがゼロです。従来のタクシーやリムジンバスと比較すると、eVTOL1機による移動は、CO2排出量を40~60%削減できることが試算されています。2030年までに、日本全国で年間数百万人がeVTOLを利用するようになれば、運輸部門のCO2削減に相当な貢献をもたらすでしょう。

日本が2050年カーボンニュートラル達成を目指す中で、航空・運輸部門の脱炭素化は重要な課題です。eVTOLは、この課題解決の切り札となる可能性があります。

課題と規制環境

安全基準と認証プロセス

eVTOLが都市上空を飛行する場合、安全基準は極めて厳格である必要があります。現在、日本の国土交通省は、eVTOL認証に関する基準を整備中であり、国際標準(EASA:欧州航空安全庁、FAA:米国連邦航空局の基準)との整合性を確保しながら、プロセスを進めています。

2026年中の認証基準の確定、2027年の個別機体の認証開始を目指して、現在、複数の機体メーカーと国土交通省が密接に協調して、認証プロセスを進めています。

バーティポート設置の規制と土地取得

バーティポートを設置するには、高い安全基準が要求される一方で、都市部の限定された土地を取得することが大きな課題です。特に、地主との交渉、既存建物の改造、周辺住民への騒音対策など、複数の課題が存在します。

国土交通省は、バーティポート設置に関する建築基準、航空法上の基準、騒音基準などを整備し、2026年内に「バーティポート設置ガイドライン」を公表する予定です。これにより、民間企業や地方自治体がバーティポート設置に向けた具体的な計画を立案できるようになるでしょう。

まとめ:三次元の交通網へ

2026年現在、空飛ぶクルマは、もはや遠い未来のビジョンではなく、近い将来現実化する新しいインフラとして、具体的な整備が進行中です。バーティポートの設置、UTM(無人航空機交通管理)システムの構築、航空交通管制の革新といった、複数のインフラプロジェクトが並行して進められています。日本が、2025年大阪万博を機に、eVTOL技術の実装と普及で世界をリードできるかどうかは、これからのインフラ整備にかかっています。都市上空という新しい交通インフラの開拓は、21世紀後半の都市設計の根本的な変化をもたらすでしょう。

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